ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語NO.56
「クリスマスイヴ前夜の奇跡 (前編)」

2002年12月23日。日本でいえば、天皇誕生日にあたるこの日、僕にとってN社最後の 出勤日でもあった。

半年の間と短くはあったが、周りの社員さんからとても長く働いているような印象が あるようで、この最終日も
「あれっ、ヒロくんってどれくらい働いたんだっけ?」
と終始聞かれ続けた。

最後ともなれば、仕事も楽かな?と思いきや、思いとは裏腹に遠方への引越し荷物の 引き取りであった。前日の作業でも、同じく引き取りに行ったのであるが、その帰り に一緒に働いた作業員連中からパイプをもらった。正直、スモーカーではないので嬉 しいと素直に表現できなかったが、彼らなりの気遣いには心から喜べれるものがあっ た。この作業員らは、俗に言う“不良中年”で、仕事はきちんとするのだが素行はど うみても歳相応にはみられず、常にいたずらや悪さばかり働く連中であった。悪行と いっても、子供だましみたいなもので、車中で騒いだり、漫才もどきのようなものを して互いに楽しむ程度のものである。ただ、一緒に乗り込むクルーの僕らにとって は、楽しい一時を過ごせるのであった。

この日、組んだ作業員も、また一味違うお笑いコンビであった。2人のうち、片方は 80年代のアイドル“トシちゃん”似で、もう一方はテニスプレヤーの“アガシ”似 であった。といっても、普通にしていればであって、喋らなければという条件付きで である。話し出したら、その面はみるみると剥がれだし、せっかくの“トシちゃん” も“アガシ”もどこかの落語家の表情のごとくを笑い呼ぶ面構えになってしまうので あった。とにかくスケベな2人だが、ただひとつ驚くべき賞賛できる点は、日本人の お客に対してお辞儀ができる英人であった。通常、仕事が片付けば、お客に“Thank you”と手を振るのが他の英人スタイルであるが、彼らに限っては、“Thank you”プ ラス笑顔と深々と頭を下げるお辞儀といったジャパニーズスタイルをいつからか取り 込んでいた。当然、お客さんからの評判も良く、完全とはいえないにせよ、なんとな く日本人特有の心に来る弱い部分を彼らは実行していた。もちろん、“トシちゃん” と“アガシ”が、そこまで計算高いとは決していえないのだが。

作業は、予定時間を大きく上回り、結局4時過ぎまでかかってしまった。最後の仕事 にしては、締めくくりの悪いものである。作業員だけ先に荷物を積み込み帰り、僕は 社員さんの郵送荷物の書類整理のためお客さんのお家に残る事にした。そう、最後に して残業である。と、その時、僕の大きな古い携帯に一通の着信があった。僕は、知 らない番号に不思議に思いながらも電話に出てみると、

「あのぉ、実は貴社の方で電話番号をきいてお電話差し上げました。突然のことで驚 かれるかもしれませんが、私、お家のクリーニングをしているものです。いつも弊社 は、貴社の引越し作業のあと、お掃除をしております。今回、ヒロさんがN社を離れ ると言う事を聞きまして、もしヒロさんにご興味がありましたら、弊社の方でお力を お借りできませんでしょうか。私も、貴社との取り引きの際、貴社をよくご存知な人 材を探しておりました。電話では、何かと分からない事があると思いますので、本 日、9時にソーホー(ロンドンにある一角、中国人街)のチャイニーズレス トランで食事でも交わしながら、お話できたらと考えておりますが、いかがでしょう か?」

僕は、この思いがけない仕事の提供に唖然となった。

しかし、仕事を失った今、この突然迷いこんだ出来事を見す見すと逃すのもどうかと いうものである。とりあえず話だけでもと思い、アポイントを交わした。そして、僕 は残っている書類の確認に取り掛かったのであった。

つづく



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