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「イタリアを破ったよ!ヒロ、韓国がイタリアを破ったんだよ!」
僕は、正直まさかそんな事が起こるわけがないと思いつつも、彼らのあまりの馬鹿騒ぎにまんざら嘘でもなさそうな気がしてきた。とりあえず、自分の目で見ないことにはとその晩、ハイライトで見ることにした。さすが、お国の一大イベントなのか韓国人友達が、ちょうど今日のゲームハイライトが行われる時間にたくさん詰め掛けてきた。
「ヒロ!」
何やらサッカー好きなキョンシが手を差し伸べてきた。僕は彼のあまりの嬉しそうな表情につられて意味もなく握手を交わした。
それからのキョンシといのは、まるで解説者の如くプレーをひとつひとつ説明してくれた。
「いいかい、ここでイタリアがオフサイドになるんだよ。」
とか
「ここでイタリアボールがラインを割って、韓国ボールになるんだよ。」
など。しかし、リプレーされるとどのシーンも僕の目には審判のミスジャッジにしか見えなかった。僕は、心地良い気分に浸っている韓国人には後ろめたく感じたが、
「これはミスジャッジだよね。」
と尋ねると、みんなは僕の方をすごい勢いで振り返った。
沈黙が数秒続く。
僕は、まずい事言ってしまったのだろうか?と慌てて小さくなってしまったが、みんなを代表するかのようにヨンジンが、
「その通りだよ、ヒロ。」
とよそ者の暴言をかばう、さすがルームメイトというところを見せてくれた。彼のファインセーブにより、僕は救われた。みんなは再び韓国の勇士が映し出されているテレビのスクリーンに目をやった。僕はホッと一息つき、今後はあまり無茶な発言は
止そうと思った。どれほど、サッカーというものがシビアであるか思い知らされた。
しかし、ゲームというのはまるで何かのシナリオに書かれていたかのように、同じ出来事を繰り返し起こさせた。イエローカードを数分前にもらっているイタリア代表トッティーがこの日2つ目のイエローカードをもらい退場した。そして、ぼくも同じ
様にこの日2つ目のイエローカードを彼らの前で言ってしまった。喜ぶみんなの前で。
「今のはトッティーの反則じゃないよ。韓国のペナルティーじゃない?」
みんなの喜びの声が消え、さらに沈黙が続く。
僕は、言ってしまってから固まってしまった。いやぁ、まずったなぁと再びヨンジンの助けを待ったが、いっこうに拾いの手がこない。今度の今度は駄目か、と思った時、
「ヒロ。」
ヨンジンではなくサッカー好きのキョンシであった。
「今のは、ボクも審判ミスジャッジだと思うよ。トッティーのイエローはおかしいよ。でもね、韓国のイエローというのは違うよ。よし、いいかい。今のはね。」
この後、数分にわたりキョンシのサッカー教室を聞くことになる。とはいえ、これでみんなからの冷たい視線から助かったのだから良しだろうか。
ところが、このように韓国の勝利で被害を被ったのは僕だけでなく、他にもいた。それは、現在ドイツで生活している日本人男性である。彼は、たまたまイタリア料理が食べたくなったのでそのお店に行くことにしたのだが、そのイタリアレストランに入ろうと扉を開けると、なんと店のイタリア人の店員から
「ちょっと。」
と店の前で止められたという。彼は状況が分からず、店員に尋ねると、
「韓国人はお断りです。」
と門前払いされたという。彼は、どういう分けかパスポートを持っていたらしく、自分が日本人であることを店員に証明して見せて、ようやくお店に入ることができたらしい。ところが、ここからさらに問題はエスカレートしていく。テーブルについた彼
が注文を選んでいると違うイタリア人店員がやってきて、
「申し訳ございませんが、他のお客様からイタリアを下した韓国の方といっしょに食事を取るのはと苦情が出ておりますので。」
と結局、店を出されてしまったという。
韓国の勝利は驚きだが、それに付け込んで執念深いイタリアもどうだろうかと思う。サッカーは時に、敵と見方を生み出す、なにやら物騒な気もする。はまり込むのも程々にしないといけない。
ちなみにこの大会4位の成績を残した韓国だが、ワールドカップ後、韓国人友達に韓国版ヨーロッパ旅行雑誌を見せてもらった。イギリスのページの表紙にはピカデリーサーカスが、フランスには凱旋門の写真が載せられていたのだが、オランダの欄にはおなじみの風車かと思いきや、なんとでかでかと韓国代表監督ヒディングの手を高だかと上げたガッツポーズ姿が載っているではないか。僕は思わず、
「これ、サッカー雑誌じゃないよね?」
と韓国人友達に確認してしまったが、彼らは僕の唖然とした様子を大笑いしていた。
キョンシは、
「ヒロ、これだけじゃないぞ。なんと、このオランダのページをめくると。」
言われた通りにページを開くと、僕はさらに驚いてしまった。そこには、"韓国代表監督ヒディングのお家にいこう"と書かれた特集が載っていた。どうやってそこに行くかのアクセス方法も旅行雑誌ならでは細かく掲載されていた。
僕の反応を楽しんだ彼らは、さらに僕に見せたいものがあると一本のビデオテープをビデオデッキに入れた。キョンシは、
「ヒロ。僕はきっと楽しんでくれると思うよ。」
と笑顔を見せてテレビのボリュームを大きくした。まず初めに英語のナレーションとともにワールドカップのブラジルやらイングランドなどの得点シーンが流れ、「あぁ、ワールドカップの得点シーンを集めたテープだね。」
と僕は、彼らを見ると、
「確かに、ワールドカップではあるけどね。」
とキョンシは嬉しそうに答えた。しかし、次の瞬間、これがどのようなテープであるかはっきりと認識ができた。英人ナレーターのコメントと共に、タイトルが現れた。
「韓国代表のワールドカップ。」
僕は、はっきり言って信じる事が出来なかった。日本でも同じようなワールドカップ日本代表みたくのテープは存在するであろうが、それをわざわざ英語に訳した物は今までに正直見たことがない。どう考えたってこの訳されたテープを買おうと思う前に母国語版に飛び移るだろうと思う。こんな、売上を見込めない様なテープを作った韓国に僕は拍手を送ってあげたい。それほど、お国での開催に意味が大きく、この勝利が大きかったのであろう。
この夏、空港に行くと、たくさんの韓国人観光客を見かける事があった。しかも、一目で韓国人と見分けがつく。なぜなら、彼らはワールドカップ以降ラッキーカラーになったという真っ赤な帽子とシャツを着ているからである。赤の軍団は、当分熱が冷めないようである。
つづく
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