ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語 No. 20
頼りになるのは友達なり

「バタン!」扉を閉める大きな音を聞いて僕は飛び上がるように目覚めた。ヨンジンは、午前中の授業を取っているので慌てて学校へ向かっていったのだろう。
(もう朝か。昨日、ヨンジンと夕食のラーメンを食べた後も語り合ったから寝るのが遅かったんだ。さぁ、午後のレッスンの前に仕事探しにまた出かけるか。)

相変わらず仕事が見つからない。友達のジンハーンが韓国に帰る時には仕事をヒロに譲るよ、と親切に言ってくれたが、彼がここを去る6月まで待つ事もできない。臨時でもいいから、早めに仕事を見つけないとまた食べ物の悪夢を見ることになる。それだけは御免だ。

サウスホールの隣町、ハンスローへ向かう事にした。ジンハーンが以前お世話になったジョブセンターを韓国人仲間から紹介してもらったからだ。そこへ着くには着いたが、入り口にインターホンがあり部屋は昼間なのに真っ暗である。とても陰気くさいところである。とりあえず、教えてもらった通りインターホンを押してみた。
「ご用件をどうぞ。」女性の声である。「仕事を探してるんだけど、なにか情報はないかな?」
「ここから歩いて10分くらいのところにオフィスがありますから、そこへ来て下さい。すぐ、面接いたしますから。」この流れの早さに、今回は期待できるかも。希望に大きく満ちた僕は、自信をもってそのオフィスへ向かった。が、そこは仕事の面接
会場ではなく、仕事を紹介する会場であった。2階へ連れてかれた僕は、いつも通り自分の履歴についての書類を書き、インタヴューへ入った。面接をしてくれた女性は僕の履歴を目を通すなり「過去に、ケアーワーカーやっていたんだ。あなた、未だに興味ある?」その発言は妙に意味深に感じ、「もちろん、もしできるなら、もう一回やってみたい。」彼女は、今日中に連絡して手紙で返事をだすわ、と伝えて面接は終了した。たったの5分だったが、以前より手応えを感じた。

その帰り道、学校の先生のヨハネスにあった。家を引っ越したそうで銀行での住所変更をするためにこの街に来ていたのだが、かなり急いでいるようだった。彼は、僕の仕事が早く見つかるとイイね、と一言いい残しその場を去っていった。

この日の休憩時間も、ボイドがモニカの様態について話をしてくれた。
「手術は明日決行するということだが、あの子はとても細い身体をしているのでその手術に身体が耐えることができるかどうか、微妙なところだと医者が話していた。」
ボイドはここ2日で一番深刻な表情を浮かべていた。もちろん、みんなも同じ心境にあった。ただ、僕はなぜか助かる予感がしていた。神からのお告げ?そうとは思わないが、俗にいうシックスセンスというものだろうか。
なにか心温かにモニカの事を考えていると、トンと背後から僕の肩の上に大きな手のひらが乗った。「さっきはすまなかった、ヒロ。」僕は振り向くと、目の前にグリーンの薄手のセーターを着た長身のヨハネスが立っていた。「どうだった?仕事は見付
かったかい?」僕は、難しそうな表情をありありと見せて、「どこも経験のない人は雇えないんだって。本当に仕事を見つけることって難しいよ。」ヨハネスは、繭にしわをよせて「アルバイトに経験が必要なの?」と疑うように僕に問いつめた。「ぼく
も必要ないと思うんだけど。この国は難しいよ。」僕は精根疲れきった様に話した。

すると、ヨハネスは近くに居たブラジル人のウォルターを呼んで、「ウォルター、頼みごとがあるんだが聴いてくれないか?実は、この素晴らしい我がスクールの生徒の一人、ヒロが未だに仕事に有り付けないことが不思議でしょうがない。なにかいい情報はないだろうか?」
「仕事?ヒロ、僕らは去年一緒に勉強しあった仲間じゃないか。なんでもっと早く僕のもとへ尋ねにこなかったんだ。もし、ヒロがいいというなら、一つ紹介できる仕事があるんだが。」ウォルターは周りを見回して、一人のブラジル人の女の子に話しかけた。
「ステファニーを知らないかい?」彼女は、ポルトガル語で何やらペラペラと話し、ウォルターは再び僕の方へ振り返った。「今日、早速学校終了後、面接しに行けるけど、大丈夫かい?」
僕は突然の話しの展開の早さに驚いてしまい、ただただ「うん。」の一言しかその場で思いつかなかった。ウォルターは僕の困惑した表情から察して、「ヒロ、大丈夫だよ。仕事はとっても楽だから。僕も、今の仕事の前、そこで働いて
いたからよく知ってるんだよ。スーパーバイザーのジャッキーも親切な人だしね。」と助言してくれた。しかし一番の心配は、それが一体どんな仕事かという事だった。
彼は、他の友達に呼ばれて僕の前から去ってしまった、待ち合わせ場所だけ伝えて。


授業終了後、ウォルターに言われた通り教室で待っていると、ウォルターはのんびりとメリオンと話しをしながらやってきた。「遅くなってすまない、ヒロ。さぁ、バス停でステファニーが待っているから行こう。」

僕は、この後、ブラジル人の小柄でチリチリのパーマのかかったステファニーに出会い 、そして、パスポート、銀行の口座など持ってその職場へ向かった。そこはジレット。髭剃りメーカーである。早速、守衛にステファニーが身分紹介をしてくれ
て、中の待合室に通された。すると、コツコツとハイヒールが廊下に当たってこだまする音が聞こえてきた。だんだん近くなる。ムスッとした主面の小柄の女性が入ってきた。年は、50前の40後半ぐらいだろうか。ガムをクチャクチャさせながら、「ようこそ、面接に来てくれました。私はスーパーバイザーのジャッキーと言います。ところで、誰の紹介を得て来たのかしら?」
ウォルターが言っていたジャッキーだが、親切さよりもすごく真っ白に塗りたくった顔のお化粧からむしろ怖そう、(いや、それは失礼だから)やや、きつそうな人である。
「今回、ステファニーとウォルターの紹介できました。」僕はややビクビクしながら答えると、
「あら?ウォルター?じゃぁ、学校の友達ね?彼は以前ここでよく働いてくれたから、よく覚えているわ。」その後、約5分程で面接が終了した。

いつもの通り合否の返事は電話でするから、とだけ伝えられ帰された。ジャッキーがした質問の中に、今まででオフィスクリーナーをしたことがあるか?、というものがあったが、それでようやく僕の仕事がオフィスクリーナーであると認識した。しかしそれ以上に、そんな経験をまた問われるのか?、というありきたりな苦しい質問に失望した。ちょっと、残念そうに「ありません。」と答えると、彼女は「あー、よかった。時々いるのよね。あまりにも知り過ぎて直ぐ2、3日で辞めちゃう人が。」
僕は、その一言に驚きと共にホッとした。今まで経験、経験と何度も言われ続けたから、こんな自分にプラスになる発言がでるなど夢にも思わなかった。

夜、8時頃1本の電話が僕の携帯になった。ジャッキーから、未だにオフィスクリーナーに興味があるかどうかだった。結果は、合格である。ついにワーホリ始まって初の仕事を得ることができたのだ。何でも何回も繰り返し、打ちのめされながらも挑戦した結果得た勝利である。
僕は嬉しくて、ジンハーンやヨンジンとまた飲み明かした。飲みながら、しみじみと一つ大事なことを心の中で復唱し、感謝の念にかられた。 "ほんとに、困ったときこそ友達である。"

つづく



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