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ショッキングな出来事から一日が過ぎた。相変わらず、学校の雰囲気はなんとなく暗く重い。
それは、間違いなくモニカによるものであろう。
この日の休憩時間もボイドがみんなを集め、モニカの様態について報告してくれた。
しかし、やや昨日よりも表情が柔らかい。その様相から、いい話しを報告してくれる予感がしてきた。「モニカについてだが、みんな、意識が戻ったよ。」その一言と同時にみんなの表情もパッと明るくなった。先生たちもホッとした表情をしていた。ただし、校長のボイドをのぞいては。
ボイドは急に険しい表情を浮かべ、「医者が言うには、モニカには手術が必要だそうだ。」
すると、ひとりの生徒がボイドに質問をした。「いったい、モニカの病気は何なの?」
多くの生徒たちはその意見にうなずくようにしてボイドに目ををやった。みんな、その病因が何なのか知りたいのだ。ボイドは、一度、口をへの字にしてやや、ためらう様に話し始めた。「あの子の病気は、天成的なものなんだ。あの子のお母さんかお父さんのどちらかが、もともと持っていた腸の病気がそのままモニカにも遺伝したようだ。そして、モニカのお姉さんも同じ病を抱えている。ただ、いつ、それが発病するか、誰にもわからないんだ。ひょっとしたら、死ぬまでその病気に出くわさないことだって、医者が言うにはあるらしい。モニカの場合、随分前から発病していてずっとお腹が痛かったのを我慢して黙っていたようだ。」
学校内に再び、重苦しい空気が流れた。「隠していたんだね。」僕の隣にいたラテン顔をした女性が言葉を放った。彼女の名はアナ、ボリビアからやってきた生徒である。そして、僕と目が合うなりモニカについて話し始めた。「あの子は私と同じ家に住んでいて、とても仲の良い友達だったの。いつも笑顔を見せていて、そんなお腹が痛いなんてそぶりを今までに見たことがなかったわ。そんなことなんで、黙っていなくていいのに。」とても悲しそうな表情を浮かべたアナは、再び話し始めたボイドの話しに耳をやった。
「医者が言うにはモニカは仮に手術が成功したとしても、再び自分の力で物を食べる事ができないだろうし、機械か何かお腹に管を通した状態で常に携帯して余儀なく生活しなければならないであろう。」
「じゃぁ、モニカは自分の力で何も出来ないということなの?」さらに、別の生徒から質問が飛ぶ。「車椅子といこともあるの?」悲観的な質問ばかりだったが、ボイドはただただ大きく首を縦に振るだけで何も言葉を出す事はなかった、いや、むしろ出せなかったのかもしれない。質問に答えれば答える程悲痛になっていく自分を押し殺しているのではなかろうか、僕はボイドの表情を見ていて感じとれた。
その夜、仕事から戻ってきたヨンジンを捕まえてどうしても胸の中にあった大きな疑問を聞いてもらった。「ヨンジン、どうしても一つ聞きたいことがあるんだ。モニカについて。」すると彼は、ちっちゃな細い目を少しばかり開いて驚くようなそぶりを
見せた。「モニカは病院で必死に戦っているよ。それがどうかしたの?」
「再び自分の力で食べたり、歩いたりできないことは知ってるかい、ヨンジン。
ヨンジンは大きな身体を上下に揺する感じで、大きなため息をついた。「聞いたよ。学校でね。午前中の授業にもボイドが来てね。」僕は、核心をつく質問を始めた。
「自分でなにもできなくなるモニカは、幸せだろうか。そりゃぁ、みんなモニカが戻ってくる事を願っている。僕だってまた再び会いたいよ。でも、モニカ自身はどうなんだろう?自分で食べる事も歩く事もできない。以前、ボランティアをしていた頃
多くの障害者を見てきた。彼らは、生まれ持った障害の人達だった。モニカは前できたことができなくなるんだよ。これほど苛立つことはないだろ。それでもモニカは生き続けた方が幸せなの?」
すると牧師のアシスタントだったヨンジンは、何もためらう事なくこの疑問に答えた。
「モニカは生き続けないといけないよ。」僕はその理由のない返事にやや愛想なく再び尋ねた。「どうして?」ヨンジンは僕の顔を見てニコッといつもの笑顔を見せた。
「ヒロの気持ちはよくわかるよ。でもね、障害を持った人達みんな、普通に生活してるだろ。それは何故か。みんな、幸せだからだよ。生きてるから幸せを感じられるのだよ。生きてるから幸せがやってくるときがあるんだよ。だから、あの子は生き続けないといけないんだよ。」
「さぁ、ヒロ、今日は僕が何か作ってあげるよ。腹減った晩飯にしよう。」
二人で韓国ラーメンをすすりながら、気持ちがすっきりした僕はポンッとヨンジンの大きな背中をたたいた。ヨンジンは不思議そうに僕の方を見たが、僕の晴れ渡った表情を見てニコッといつもの笑みを見せた。そして僕らは、またラーメンをすすり出した。
つづく
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