ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語 No. 18
祈りよ届け!

校長のボイドは深いため息の後に言葉を発し始めた。
「みんなといっしょに勉強してきたモニカが今、危篤状態にある。昨日の夜、倒れてそのまま病院に運ばれた。朝から病院に行ってモニカの様態を見に行ったが、今、集中治療室の中で昏睡状態であった。病因は今、調べているところだが。一つみんなに言っておかなければいけないことがある。それは、決して病院に行ってはいけないことだ。以前、ここでモニカのように英語を勉強していたモニカのお姉さんからの希望だ。みんなが見舞いに行きたい気持ちはわかるが、今できることは神にお祈りすることだ。」と言い、みんなで隣りの教会に祈りに行こう、ということになった。
さすが、クリスチャンが経営している学校だとその信仰心の熱さには感心するものの、だからってモニカがそれで本当に復活できるのか?と無宗派の人間ならではの反発も抱いた。とはいえ、あの子が信じる者が神なら、それにすがるのが今はベストだと思いそのお祈りに参加することにした。

先生の中でも信仰心の強いメリオンが先頭に立って、ひざまずき前の椅子の背に両手を組んで乗せるようにしてぼそぼそと神にお祈りを始めた。周りのみんなも続くようにして、ある者はメリオンと同じ様な姿勢を取り、またある者は椅子に腰掛け上半身を屈むようにして両手を組み合わせお祈りをしている。僕はその様子を見ながら、何かとても強いパワーのような何とも表現できないエネルギーを感じた。なんだろう?
みんなの願いが一つのせいだろうか。とても魂のような霊妙さを身体全身で受け取れた。継続的な震えが僕の肩口から背中にかけて襲ってきた。その強襲した震えを止めることだけでいっぱいで、僕はモニカを祈る所ではなかった。突然、一人のブラジル人の女生徒が立ち上がり、両手を空高く上げ歌い始めた。もちろんクリスチャンソングである。きれいなメロディーにのせて両手を軽くウェーブさせる様に身体全体で表現し始めた。歌詞はポルトガル語だったため何を意味しているのかわからなかったが、所々にモニカという言葉が出てきていたのだけは聞き取れた。

15分ぐらいであろうか。この休憩時間のお祈りは、再びボイドが正面に設けられた一段高くなっている台の上に立ち、話し始めたところで終了した。みんなの顔を見ると一部の生徒が涙を流していた。先生のメリオンもその一人であった。
後で聞いた話だったが、メリオンはモニカとこのとき部屋をシェアしていたらしく、モニカのその病気に気付かなかったことへの情けなさから激しく自分への罪の意識を感じていたという。

この日そのメリオンが担任であった。彼女は、授業終了後モニカのお見舞いに行くという事で、生徒たちからのメッセージを手紙に書いて一緒に持っていくということを考案した。そしてテーブルの上に手紙だけ置かれ参加者を募った。僕は迷わず、その手紙にメッセージを添える事にして授業終了後それを書くことにした。しかし授業終了後見てみると、その手紙には、未だ数人の生徒からのメッセージしか載っていなかった。なにか冷淡なこの有様に物寂しさをおぼえた。(あのお祈りなんだったんだろうか、みんなは必死にモニカの為に祈ったからそれでもう十分なのか)
他人は他人、自分は自分だ。僕はその手紙にこう記した。

"もう一度、元気な姿が見えるのを楽しみに待っているよ"、と。
   
                               つづく




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