ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語 No. 16
「仕事なき闘い」

午前中に学校を済ませた僕はジンハーンの知っている"job center"(こちらで言う職安)へ一緒に向った。ある程度大きな街にはどこでも、この"job center"というものがあり、毎日多くの人達が通っているようである。この国も失業者という問題が深刻であることを物語っている。

中に入ると数台のコンピュータが備え付けてあり、各自で好きな業種を調べられる。さらにロケーション、週何時間などを選択して仕事が絞られていく。今回、どこかの掃除屋さんをやろうと思っていて探したのだが、意外にその数の少なさに驚いた。2、3個ピックアップしてプリントアウトした後、窓口に持っていくと、
「そこに名前書いて待ていて。」
とインド系の若い女性にいわれた。

名前を書く欄には、もうすでに8人くらいの名前が書かれてあって、その横の欄にだいたいこの時間に呼ばれるであろうという時間が表示されてあった。待つ事20分くらいで僕の名前が呼ばれた。コンピュータの前に座っている女性と男性の方へ連れていかれて、その向いの椅子に座らされた。女性の方はこちらもインド系のようで、男性はイギリス系の顔立ちをしていた。さっそく、名前と住所、電話番号をきかれ、女性は男性の指示に従いながらコンピュータに登録していた。どうやら、彼女は入社間もない様である。
「仕事をピックアップしたうち、2つだけ選んでください。こちらで電話してアポイントを取ってあげますから。」
といい、こちらをジーと見つめてきた。

とりあえず、時間の割に金になる仕事をと思い、
「この早朝の道路掃除とヒースロー空港の清掃係にします。」
と伝えた。女性はすぐさまその2つの会社に電話をし始めた。道路掃除の会社は検討して後日直接僕の元へ連絡すると言う事だった。ヒースローの仕事は来週の金曜日に面接があるので来てください、との事だった。その返答を聞いて、なんとか決まりそうだなぁ、とほっとした。

帰り際、ベテランであろう男性が
「ソレジャア、マタネ。」
と片言の日本語を喋り出した。思わず振り返って何で日本語を知ってるのか不思議そうに問いただすと、
「昔、ヒースロー空港のイミグレーションで働いていたから、たくさんの日本人を見てきてるからね。ちょっとした日本語は知ってるよ。」
とやや自信ありげに答えた。
「サヨナラ」「ゲンキデネ」など続けざま日本語を言って、隣の新入り女性に日本語を教えながらからかい始めた。なんか見ていたら長くなりそうだたので、
「またね、今日はありがとう。」
だけ言い残してその場を去った。

待合室に戻ると、ジンハーンはグーグーと鼾を掻きながらぐっすり寝ていた。彼は毎週末、ホテルのレストランのシェフとして朝から晩まで働いているので疲れているのであろうと思った。こういった生徒は沢山いる。毎朝5時からスーパーの清掃業をしていたり、マクドナルドなどファーストフードショップのモーニングセットを作っていたり、真夜のバーのバーテンしていたりしながら、昼間学校に行く。ほんとうにみんなよくやっていると関心してしまう。しかし、自分も同じ事をしなければ生活できないので、他人を関心している暇はないのだが。

1週間がたった。未だに道路掃除の会社からの連絡がない。どうも落ちてしまったようだ。最後の望みのヒースローの面接に行ったが、その人の多さにビックリしてしまった。8ページ程度の冊子をもらい、自分に関することを記述していったがその項目の多いこと。過去の学歴、職歴からその当時の給料、会社名、その住所とボスの名前まで。それを仕上げると、やっと面接にありつけれたが、面接官の男性が言うには
「君は、ここイギリスで最近5年間働いた経験は何ですか?」
と突然たずねてきた。

と、いわれても5年もイギリスに住んでいないから答え様がない。パスポートのビザを見せながら
「ワーホリで来ているから、そんな経験は全くないし、それは僕には不可能な事だ。」
と伝えた。彼は、少し考えて
「2、3日時間をくれないか。手紙で合否を連絡するから。今日は来てくれてありがとう。」
と言い残し席を立っていった。その返事からしてあまり期待が出来ないと思っていたが、実際その通りであった。手紙には、
「今回は残念ながら不採用だが、もし、あなたがやる気があるなら3ヶ月後もう一度来てほしい。その間、何らかの就いた仕事を特別にあなたの経験とみなすから。」
と記されてあった。ルームメートのヨンジンにこのことを話すと彼は
「これはうまいいいわけだと思うよ。」
とネガティブな答えが返ってきた。結局の話、この国は多くの国籍の人達を受け入れながら実際にはその扉はホントに狭いものであるのだと実感した。だから多くの日本の生徒が、日本人が経営している店で働きがちになるのであろうかと思う。また、たくさんの生徒がマクドナルドなどで働きがちになるのもわかる気がする。時給は安いが、採用され易いのであろう。

仕事を就く事の大変さに気付いたとしても、とにかくあたって砕けろでどんどん面接に挑戦するしかない、と思いそれから2週間がんばったが、ダメなものはダメだった。いきなり現れた大きな壁に悪戦苦闘しながらワーホリという貴重な時間はどんどん虫食むように食いつぶされていった。

つづく





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