ヘッジホッグ、汗と涙のワーホリ物語No1
「なぜ、急に日本に戻るんだい?! 冗談でしょ!」

語学学校の先生である男っぽいメリオンが、細淵の眼鏡越しに驚いた眼差しで僕に問い掛けた。正直、まだここに残って勉強したい気持ちがあったせいか、僕の返事は弱々しかった。

「お金が....。生活する余裕がないんだ。」
メリオンはうな垂れるように一度ため息を吐いた。

お金が底を突いていたのは、本当の事だった。この年の2月、ボランティアワーカーとしてここイギリスにやってきた。初めの2ヶ月をとても落ち着きある街ケンブリッジで語学学校に通いながら老人施設訪問をして過ごし、その後は南部の港町ボーンマスで毎日、障害者の人達の世話をしていた。この頃から、真剣に英語を勉強したい思いが強まり、9月の半ばに、UK−Jの紹介で今住むロンドンのサウスホールに移ってきた。

来た当初と同様、ボランティアでアクトンの障害者の方たちの学習センターでお手伝いと、語学学校を掛け持つかたちで過ごしてきた。

ボランティアビザは、残念な事にアルバイトができない。ここがスチューデントビザと違うところで、こちらは週20時間なら働く事ができる。僕の場合、ボランティアだったのでそれを終えて学生を始めたころには、学費、食費そして生活費が僕の懐をものの見事に食いつぶしていた。 しかし、まだここで勉強したい気持ちに偽りはなかった。

「日本に戻って、きちんと稼いで来年4月に必ず戻ってくるよ。」
食事の途中だったメリオンは手にしていたフォークといっしょに高々と両手をかかげ挙げて、
「ホントかい?! よし!待ってるよ、ヘッジホッグ」(注)日本語でハリネズミという意味。

男勝りのメリオンは心から喜んでいた。彼女はとても生徒たちと接することの大好きで何よりも生徒思いの先生である。ポーランドで4年間、語学を学んだ体験といろいろな人生経験から、とてもユーモラスのあるオバサンでもある。 学校の出口へ向かっていると、学校の仲間たちが集まってきた。ブラジル人のウォルター、カスヤ、エドワルド、ロベルタ、韓国人のジンハーン、ヒジュン、そして日本人の礼子。みんなとの別れの挨拶を終えて、学校の外へ出た。とても風が強く肌にしみる寒さ、そして空はどんよりと灰色の雲がはりこびっていた。イギリスの12月そのものだった。しかし、僕のキモチは何かとても暖かく晴れ渡っていた。

クリスマス10日前のこの日、僕はデコレートされた街並みを横目にイギリスを発った。

つづく

(注)ヘッジホッグ イギリスでの僕の二ックネーム



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